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鹿児島地方裁判所 昭和55年(ワ)440号 判決

原告

松元才蔵

ほか一名

被告

有限会社桜峰運送

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告両名に対し各金三三三万円及びこれに対する昭和五四年七月三日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告両名のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分しその二を原告両名のその余を被告両名の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告らは、各自原告両名に対し各金一一五四万〇九四〇円及びこれに対する昭和五四年七月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

昭和五四年七月三日午後一時五五分ころ被告徳永豊木(以下被告徳永という)が川内市大小路町三〇番七号地先交差点内を普通貨物自動車(鹿11あ三五五三号以下本件車両という)を運転して川内市立中学校方向より串木野市方向に右折走行中、北中側より青信号に従つて横断歩道上を歩行中の訴外亡松元律子(以下、亡律子という)に本件車両の右前輪を接触させて同女を路上に押倒し、一旦停車した後再び発進させたため、本件車両の下からはい出ようとした同女を本件車両後輪で轢過し、全身打撲の傷害を与えたため、これにより、同日午後三時ころ同女を死亡させるに至らしめた。

原告らは、右律子の両親でその相続人(相続分各二分の一)である。

(二)  被告らの責任

本件事故は、被告徳永が横断歩道を通過する際一旦停止して前方左右の安全を確認し横断歩行者の安全を確保すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と通過しようとした過失により発生したものであるから同被告は民法七〇九条により不法行為責任を負うべきである。

また、被告会社は、被告徳永の雇用主で本件車両の所有者であり、かつ本件事故は、被告徳永が被告会社の業務のため本件車両を運転中惹起したものであるから被告会社は、自動車損害賠償責任保険法第三条により運行供用者責任並びに民法第七一五条により使用責任を負うべきである。

(三)  損害

(1) 亡律子の逸失利益金二六三八万一八八〇円

亡律子(昭和四一年一〇月一三日生)は当時満一二歳(中学一年生)の健康な女子であつたから、将来は県立川内高等学校へ進学させ、同校卒業後は原告松元才蔵(以下、原告才蔵という)が営む司法書士の事務員として就労させ司法書士の資格も取得させる予定であつた。

従つて、亡律子の就労可能年数は四九年間であり、同人が高校卒業後原告才蔵の経営する司法書士事務員として就職した場合、同人の年間収入は各月額一五万円宛の給料と年間賞与(六月と一二月の各末日支給)二カ月分合計金二一〇万円(注 昭和五三年の賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計男子労働者学歴計の年令別年間合計額の一八歳の男子の項によればその年額は、一三六万三八〇〇円であるが、原告松元家には男子の子供はないので亡律子に養子を迎え後継者に予定していた関係上司法書士事務員として就職した場合は、一八歳の男子以上の賃金を支給することを予定していた)を得たはずであるから、これより生活費年四〇パーセントを控除し新ホフマン係数を利用して中間利息を控除することとして二〇・九三八を乗じて算定すると亡律子の逸失利益は次のとおりとなる。

逸失利益算定表

毎月の給料 月分 6月・12月の賞与 年間固定収入

(イ) 150,000×12+300,000円=2,100,000円

生活費 生活費

(ロ) 2,100,000円×0.4=840,000円

(ハ) 2,100,000円-840,000円=1,260,000円

(ニ) 1,260,000円×20,938=26,381,880円

逸失利益金 26,381,880円

(2) 亡律子の慰藉料金二〇〇万円

(3) 原告両名は、右(1)(2)について各自の法定相続分である二分の一宛を相続した。

(4) 葬儀費用金九五万円

原告両名は、亡律子の葬儀費として合計金九六万〇三八〇円(死亡診断書代二通分金三〇〇〇円を含む)を支出し同額の損害を被つたが、そのうち九五万円を請求する。

(5) 医療費金一〇万六七〇〇円

原告両名は亡律子の受傷から死亡までの治療費として金一〇万六七〇〇円を支出し同額の損害を被つた。

(6) 原告両名の慰藉料合計金一二〇〇万円

原告両名は、後継者を亡くしたことから甚大な精神的苦痛を被つたので各自金六〇〇万円宛を請求する。

(四)  損害の填補 金一八三五万六七〇〇円

原告両名は自動車損害賠償責任保険より右金員を受領したので各自その二分の一宛を前記(三)の内金に充当した。

(五)  よつて、原告両名は、被告らに対し各自金一一五四万〇九四〇円宛及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五四年七月三日から支払済まに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)項の事実は認める。

(二)  同(二)項の事実中、被告会社と被告徳永の使用関係及び被告徳永の運転が被告会社の業務中であつた事実は認め、被告徳永の過失の程度は争う。

(三)  同(三)項については知らない。

(四)  同(四)項は認める。

(五)  同(五)項は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第(一)項の本件事故の発生については、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第五ないし第一一号証、第一三ないし第一五号証によれば、被告徳永に原告主張どおりの過失の存することが認められ、他にこれをくつがえすに足る証拠は存在しない。

従つて、被告徳永に民法七〇九条の不法行為責任の存することは明らかである。

また、被告会社が本件車両を運行の用に供していたものであることについては被告会社においてこれを明らかに争わないので、右運行により生じた本件事故について被告会社が自動車損害賠償責任保険法三条により損害賠償責任の存することは明らかである。

三  そこで、原告両名の損害額について検討する。

(一)  亡律子の逸失利益

原告両名本人尋問の結果によれば、亡律子は本件事故当時満一二歳の健康な女子であつたことが認められるから、同人は満一八歳から六七歳まで四九年間稼働可能であつたものと認められる。ところで、同人の得べかりし利益の算出の根拠として、原告両名は、亡律子の満一八歳時の収入を年間金二一〇万円としているが、右算出の根拠は客観性を欠くものであり採用し得ない。そこで、客観性を有する資料中最新のものである昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の女子労働者一八歳ないし一九歳の給与額によるのが相当である。ところで、男子平均給与額に比し女子の平均給与額は低額であるが、女子の場合には家事労働を斟酌してその生活費の控除を四五パーセントに留め、もつて、損害額の男女差を縮少するのが相当である。そして、新ホフマン方式によつて、年五分の割合による中間利息を控除することとして、逸失利益を算出すると、

その算式は、

(94.7×12+115.2)×(1-0.45)×20.939=14,413,988.82

となるので、一万円未満は切捨てることとし、亡律子の逸失利益は金一四四一万円とするのが相当である。

(二)  亡律子の慰藉料

亡律子の慰藉料としては金二〇〇万円とするのが相当である。

(三)  原告両名は亡律子の両親であり、他に相続人はないから、右亡律子の損害を各自二分の一宛相続した。

(四)  葬儀費用

原告松元才蔵本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし一一、甲第三号証の一、二によれば、原告両名は亡律子の葬儀費用として(死亡診断書料も含めて)金九六万〇三八〇円の出損を余儀なくされたものと認められるが、亡律子が満一二歳の中学一年生の女子であつたこと等諸般の事情を考慮すれば、亡律子の葬儀費用の損害としては金五〇万円をもつて相当とし、これを超える部分については本件事故と相当因果関係にある損害とは認められない。従つて、原告両名は亡律子の葬儀費用として各金二五万円宛の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(五)  医療費

原告両名が亡律子の治療費として金一〇万六七〇〇円を支出したことは被告両名とも明らかにこれを争わないから、原告両名は亡律子の治療費として各金五万三三五〇円宛の損害を蒙つたものと認めることができる。

(六)  原告両名の慰藉料

原告らは、亡律子の両親であるが、亡律子を失い甚大な苦痛を蒙つたものであるから、その精神的苦痛を慰藉するには各自金四〇〇万円をもつて相当とする。

(七)  損害の填補

原告両名が自動車損害賠償責任保険から既に金一八三五万六七〇〇円の保険金を受領済みであり、原告両名が各二分の一宛の金九一七万八三五〇円宛をそれぞれ前記損害に充当したことは当事者間に争いがない。従つて、原告両名の各損害額から各金九一七万八三五〇円宛を控除する。

(八)  以上認定のとおりであるから、結局、原告両名の本件事故による損害は、亡律子の損害賠償請求額を二分の一宛各金八二〇万五〇〇〇円と各自の蒙つた損害各金四三〇万三三五〇円の合計金一二五〇万八三五〇円から先に受領済みの自動車損害賠償責任保険金九一七万八三五〇円を控除した残額金三三三万円となる。

三  よつて、原告両名の本訴請求は、各自金三三三万円の損害の賠償を求める限度において理由があるから主文の範囲でこれを認容することとし、その余の部分については理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小田八重子)

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